上司と部下、先輩と後輩、取引先、夫婦、親子……、いつも会話がすれ違うのは、じつは対話の様式が大きく違っているから。累計100万部超の「トリセツ」シリーズ産みの親が、満を持して書き下ろしたコミュニケーションの秘訣『対話のトリセツ ハイブリッド・コミュニケーションのすすめ』から、注目の章をご紹介! 対話の奥義 ヨコ型=共感型、タテ型=問題解決型。脳の中の出来事がまったく違い、話の進め方が違う。ヨコ型はことのいきさつを感情たっぷりに話すことで、気づきを起こす。話を共感で聞いてもらうことが必須。タテ型は結論から聞きたがり、人の話はさっさとまとめて、問題解決を急ぎたい。 このまったく相容れない対話特性を目の当たりにすると、誰の脳にも浮かぶ疑問がある。「では、目の前の人が、今この瞬間、タテ型なのかヨコ型なのか、どうやって見分ければいいの?」 実は、それ、気にしなくていい。 対話の奥義は、いともシンプル、以下の2つである。 � 相手の話は、共感で受ける � 自分の話は、結論から始める こう考えてみてほしい。人類のコミュニケーションには2本の通信線がある、と。「心の通信線」と「事実の通信線」だ。 ヨコ型優先の人は、心の通信線だけを使おうとする。好き/嫌い、したい/したくない、快/不快という気持ちのゆれを基軸に、共感で紡いでいく通信である。 一方、タテ型優先の人は、事実の通信線だけを使おうとする。客観性事実を基軸に、ことの是非(どちらが正しいか、どちらが合理的か)を決していく通信である。 タテ型とヨコ型の対話は、互いに違う通信線を握っている。だから、話が通じないのである。この2本を同時につなごう、というのが、私の提案=対話の奥義である。 順番が違うと、気持ちが通じない 「相手の気持ちは受け止めよう」「ことの是非は結論から簡潔に話そう」、あらかじめそう決めておけば、脳は、比較的すばやくタテ型とヨコ型を切り替えて、両方使えるようになる。この切り替えは、反射神経に近い部分が行うので、ある程度、経験を積む必要があるけれど、必ずできるようになる。 気持ちは共感で受け止め、ことの是非は結論から話す。これができたら、心も通じるし、すばやい問題解決も叶うのである。対話満足度が、本当に半端ない。 「気持ち」と「ことの是非」を同時に扱うのが基本なのだが、そうしたとて、タテ型優先とヨコ型優先では、違うセリフになってしまう。 友人や家族が、自分に起こったトラブルを話してくれたとき、たいていの人は、アドバイスをあげたいし、慰めてもあげたい。このとき、アドバイスはタテ型回路、慰め(共感)はヨコ型回路のお仕事なので、口から出ることばは、脳が優先しているほうが先になる。 タテ型は、結論からの共感。「きみも先に言えばよかったんだよ。まぁ、言いにくい気持ちもわからないではないけど」のように。ヨコ型は共感が先なので、「わかるよ〜それ、そんなふうに言われたら、そりゃがっかりするよねぇ。けど、やっぱり先に言っておくべきだったんじゃない?」となる。 どちらも同じように相手を思い、愛(共感)と誠意(アドバイス)を表明しているのに、ずいぶん違って聞こえるでしょう? この順番、ぜひ、ヨコ型のそれ=「気持ち」を受け止めてからの「ことの是非」を基本にしてほしい。 というのも、ヨコ型にダメ出しから入ると、強く拒絶されていると感じて、コミュニケーションを放棄することがあるからだ。一方で、タテ型に共感から入った場合、多少べたついて感じることはあっても、特に問題はない。つまり、リスクヘッジのために、「気持ちの受け止め」を先にしておくべきなのである。 もちろん、あえて結論から言うという手もある。相手の緊張感を喚起したいとき、私はあえて、「○○すべき」やNOを先に言う。コンサルタントや経営者の立場で、それを言わざるを得ないときもある。あるいは、相手がその答えを予想していて、決めつけてもらったほうが気持ちいいのだろうな、と感じたときもそうする。とはいえ、これらは対話戦略の一環。基本は、まずは気持ちの受け止め、そして、ことの是非を簡潔に。これが対話の奥義に基づく、対話の進め方ということになる。 動揺する脳と懲りない脳--世界を真っ二つに分けている脳の出会いは、概念世界を凌駕する