「6720万円で購入の絵画が“贋作”」「地下駐車場に美術品を6年放置」 “学芸員が冷遇”される美術館大国・日本の実状

慢性的に不足する学芸員  3月30日、47都道府県で最後の県立美術館といわれる「鳥取県立美術館」が開館した。日本は各地に公立の美術館や博物館があり、私立の施設なども加えればその数は数千件といわれる世界屈指の“美術館大国”である。その一方で、各地で問題になっているのが運営費や学芸員の不足である。ある美術館の関係者がこう打ち明ける。 【写真】プロでも本物と贋作の区別が困難…ブランド品を模倣した「スーパーコピー」 「入館料収入と補助金に頼っている公立の美術館や博物館は、慢性的な赤字に悩まされています。多くの公立美術館は、建設当時は大規模な予算を組んで美術品を収集し、箱も立派に造ります。しかし、その後は美術品購入の予算がつかず、満足に蒐集ができていない例が少なくない。さらに人件費が抑制される傾向が強く、学芸員の育成が追い付いていないのです」 都道府県最後の美術館となった「鳥取県立美術館」のホームページ  ある程度の人数の学芸員を確保することは、美術館・博物館の運営のためには不可欠なはずである。しかし、前述のように人件費がカットされるなかで、募集人員は限られている。たまに欠員が出たときに募集が行われるため、目当ての施設に就職できるかは運とタイミングに左右される面も大きい。そして、実際に勤務することになっても、専門以外の仕事を任されるケースは少なくないという。 資料の整理が追い付いていない  特に、地方の美術館は学芸員があらゆる雑用業務を行い、展示の企画立案から交渉まで手掛けなければいけないこともある。学芸員一人に課せられる負担が大きすぎるため、調査研究に充てる時間が満足に取れていない例も少なくないという。最大の問題は、人手不足のために資料の整理が追い付いていないことだ。 「奈良県立民俗博物館では収蔵品が放置状態になっていて、廃棄するかどうかに迫られるなど、社会問題になりましたよね。あんなものは氷山の一角で、美術館や博物館では資料の整理が遅々として進んでいません。とりあえず受け入れは行うけれど、10年、20年と手つかずのまま眠っている資料も各地の博物館にたくさんあります」  特に、古文書や考古資料などはバックヤードの棚に置かれたまま、整理の時を待っている(が、結局はそのままで整理されない)もの多い。そのうえ、近年は美術品に対しても想定外のことが起こっている。大阪府では、現代美術の彫刻作品105点を、ブルーシートをかけたまま6年以上も地下駐車場に放置していたことが発覚した。しかし、こうした杜撰な管理が見られるのは大阪府だけではないようだ。 「あの程度なら、まだかわいいレベルだと思います。大阪府は逆に維新の政治に対して関心が高い土地柄なので、バレたんです。むしろバレて社会問題になっただけマシだと思えます。マスコミが取材にも行かないほど関心の低い田舎の美術館や博物館では、文化財が廊下に放置されてカビだらけになっている例なんて普通にありますからね」 引き継いだ担当者に運命が委ねられる  筆者は雑誌の取材で各地の美術館や博物館を取材してきているが、行政や地域住民の関心の低さも問題だと考えている。箱を建設した関係者は、地域の文化の殿堂にしようと熱意を持っている例がほとんどだ。しかし、数年後に引き継いだ担当者に興味関心がないと、悲惨なことになる。学芸員を冷遇し、コストカットばかりを口にするようになるのだ。  地域住民に対する啓発活動も大きな課題である。その価値を共有できなければ、文化財が守られなくなってしまうためだ。例えば、東日本大震災の被災地にある文化財の収蔵施設では、津波で被災した郷土資料に対し、住人が「人命が最優先なのに文化財保護など不要だ」「そんなものは捨ててしまえ」と言ってきた例があると関係者が嘆いていた。  奈良県立民俗博物館の例にあるように、郷土資料は絵画や彫刻以上に価値がわかりにくい。「開運!なんでも鑑定団」のような番組に出してもプレミアがつくわけでもないため、廃棄してもいいのではと口にされてしまうのだ。したがって、保護する意義をしっかり説いていく必要があるのだが、ここも行政のやる気によって大きく左右されてしまうのだ。  筆者がある郷土資料館を訪問した際、よほど暇なのか、受付の職員がスマホゲームをやっていて、「適当に見てください」と言われたことがある。展示物の解説を求めると、「私はわからないので…」「そこにある本で調べてちょうだい」と雑な対応を受けてしまった。こうしたやる気のない職員の左遷先となっている資料館は、各地にたくさんある。 美術品の真贋問題  今後、美術館や博物館を揺るがす問題になりそうなのが、展示品の真贋を巡る問題である。高知県立美術館や徳島県立近代美術館では、90年代に購入され、長年展示されていた絵画が贋作であると判明した。なぜ、こうした問題が起きるのか。美術館や博物館には絵の真贋がわかる人材がいないことも多く、絵画の購入にあたっては画商の性善説に任せているためだと、さきの美術館関係者が指摘する。 「私が見て回っただけでも、偽物か、偽物の可能性が高い絵が展示されているケースはある。特に、富裕層のコレクションをもとに建てられた美術館は多いですね。しかし、学芸員は真贋なんて簡単にはわからないし、本格的な鑑定をするには専門家同士で話し合うので費用も時間がかかる。今の財政状態では、やりたくてもできないというジレンマがあります」  美術館や博物館の学芸員は鑑定業務を行ってはいけない、といわれる。実際、美術館に「この絵は本物ですか」と鑑定を依頼しても、断られるのが普通だ。しかし、この美術関係者に言わせれば「鑑定を行ってはいけないというより、そもそもスキルがないので、できないと言う方が正しい」そうである。  だが、最低限、学芸員に絵の良し悪しを見抜く能力がないと、税金で偽物をつかまされる可能性があるのだ。箱だけ造って、人材を育てないままでいいのだろうか。しかも、今後は地方の人口減少が進み、税金でも維持ができない美術館・博物館が増えてくると考えられる。美術館・博物館を巡る課題は山積状態にあるといえる。 ライター・山内貴範 デイリー新潮編集部

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