100人婚も可能…? ドラマ『三人夫婦』でも注目される事実婚の実態

法律上の婚姻届を提出することなく、夫婦同様の関係を築く選択肢として、近年注目が集まる「事実婚」。ドラマ『三人夫婦』(TBS系)では、男性二人・女性一人という「三人」での夫婦の形を描き、異なる文化や価値観の人々が共存する多様性社会における結婚の在り方が大きなテーマになっている。 主人公の三津田拓三が、元カノ・矢野口美愛とその彼氏の里村新平から「三人夫婦」を提案され、1年間を区切りに、自分たちらしい幸せを模索していく本作。家事分担や親の理解、夫婦生活のルールや嫉妬心への向き合い方など、劇中ではさまざまなトピックが飛び交う。「三人で夫婦になる」という契約を交わす上で、必要な手続きやハードル、メリットなどについて、池田・國松法律事務所代表の國松崇弁護士が解説する。 事実婚における「公正証書」の役割 三人婚について、國松弁護士は「今の日本の法律は、3人で結婚することを法律上の婚姻関係として認めていません。なので、それを実現しようと思ったら、現状は法律婚ではなく事実婚という形を取るしか方法はありません」とした上で、「事実婚は、何か決まった形があるわけではなく、契約でこうしておかなければいけないということも特にありません。社会における概念や、役所がどのように扱うのかも、人やケースによってまちまちで、はっきりとしたルールがあるわけではありません」と前置きする。 何らかの事情で婚姻を選択しなかったカップルについて、一緒に暮らした期間や生活費の負担などを踏まえ、「後から振り返ると事実婚状態だった」と裁判などで事実婚(※いわゆる「内縁関係」)が認められるケースが従来は多かったというが、今は「法律婚と事実婚を比較した上で、あえて最初から積極的に事実婚を選ぶ人たちも増えてきたように思います」と言う。「もともと別々の家に住んでいる状態から、同居を始めて〈今から夫婦です〉と言っても、ずっと別々に暮らしていたし、子どももいないし、生活費も別だったなら、それが裁判の基準ではいきなり内縁関係とは認められにくい。それなら最初から契約によって、婚姻に似た法的な権利義務を発生させる関係を作りましょうというロジックが後者のケース」と続ける。 法律婚では同居や扶養義務などが法律で定められているが、事実婚においては、そうした規定は使えないため「契約」を結び、同居・扶養などに関する事項を、当事者間で予め約束しておく人もいる。「契約は口約束でも成立はしますし、それは事実婚契約でも同じです。その上で、成立した契約の内容を単にメモにして置いておくのか、契約書という形できちんと決めたことを書いておき、判を押して残すのかは人それぞれです。事実婚が成立するかどうかが、こうした手段によって大きく左右されることはありません。しかし、〈事実婚であることを自分たち以外の誰かに証明するために何が使えるか?〉という場面では、その手段によって差が出るでしょう。その中で、社会的にも法律的にも、非常に高い効果が期待できる方法の一つが公正証書という位置づけになるかと思います」と、公正証書の役割について説明する。 公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書で、契約内容を公に証明し、裁判を経ずに強制執行(差し押さえ)なども可能にする文書であり、強い法的効力を持つ。「法律婚でいう戸籍上の表記などのように、事実婚は公的に証明する手段や方法はまだまだ少なく、きちんと結婚していることを誰かに分かってもらうために苦労することがあります。そこで、戸籍などで証明はできなくても、たとえば公正証書を作っておき、いろいろな場面で証明の手段として使う、そんな一つの印籠のように使うことが考えられます」と、意義を明かす。ちなみに、今は「届け出れば、住民票に、世帯を同じにしている状態で〈未届けの妻〉などと記載されるので、住民票が強い証明書類にもなる」とも。 公正証書があるからといって法律婚と同等の効力が付与されることはないが、「お互いの約束事については、間違いなく成立しているということを、公的機関である公正役場が証明してくれる。社会的にも非常に高い信用力があるので、〈こういう形で私たちは婚姻生活を歩んでいます〉と第三者に証明する一つのツールにもなる」と話す。 契約内容の基本。すり合わせのハードルも では、実際に契約を交わすことになった場合、どのような内容を盛り込むのが一般的なのか。國松弁護士は「まずは、同居する義務や扶養義務、不貞行為の禁止などについて、法律婚であれば当然に認められていることを書いていくのが基本」と例を挙げ、「その上で、将来的なこと、たとえば子どものことや相続のことについても書いていき、全体的な骨組みを作っていきます」と続ける。 「事実婚の状態で子どもが生まれた場合、女性は自動的にシングルマザーとして法的な母親になりますが、男性が法的に父親と認められる状態をつくるためには、認知という作業が必要になります。そこで契約の中に、〈子が生まれた場合は認知する〉と加えておくことで、法律婚状態と同じような親子関係を作ることができます」。そのほか、離婚したときの財産分与の取扱いや、パートナーが亡くなった際の相続財産についても、法律婚と同じような状態にしておくためには、これに沿った契約条項を作っておく必要があるという。 具体的に契約書面を作ることは、「自分たちだけでもできる」と國松弁護士。「公証役場の人に相談しながら、自分たちで作っていくというパターンもある」とも。もっとも、「公正証書では、できるだけ裁判などでも通用する法律用語を使わなければいけません。例えば〈相手のことを愛する〉とただ書いても、それが具体的にどういう義務や権利に繋がるのかは全く分かりませんよね。たとえば、〈不貞行為をしないこと〉など、法律的に確実に解釈される言葉をきちんと使って書くことが重要になります。弁護士など法律の専門家に公正証書の作成を依頼することが多いのは、そういった面があるためです」という。 公正証書作成を依頼する相場は、「依頼する弁護士にもよりますが、弁護士であれば10万円〜20万円ぐらいが一般的かと思います。ひな形があるわけではなく、依頼主もそれぞれ言いたいことややりたいことが最初からぴったり一致しているわけではないので、時間がかかるケースも多い」とし、「さらに〈三人婚〉という形だと、前例もほとんどないでしょうから、三者三様の思いもあり、いざ話を聞いてみたら全然違うということがざらに起こりうると思います。その調整をしたり、文言に落とし込んだりするような作業は、おそらく2人でのパターンよりもさらに大変で、金額も上がるかなと思います」と話す。 「100人婚」も可能? 事実婚のメリットとは 従来の結婚制度にとらわれず、自由な形でパートナーシップを築く結婚観に対する肯定的な見方も増え、法律婚にこだわらない多様な価値観は受け入れられつつもある。事実婚を選ぶメリットやデメリットについて、國松弁護士は、「事実婚を選ぶ分かりやすい理由の一つは、夫婦別姓を望む場合ですね。現行法は、夫婦は同じ姓にしないといけないというルールがあるので、別姓がいいと望む方々は事実婚を選ぶしかない」と、事実婚が選ばれる背景に言及する。 「法律婚になると、扶養などいくつかの法的義務が発生する。そうした制約や義務に縛られたり、自分の生活スタイルを崩したくなかったりする人たちもいる。お金に執着せず、相続にも興味がないなど、法律婚による効果にあまりメリットを感じない人が事実婚を選ぶ場合もある」と、自由度の高さを魅力と捉える層についても指摘。公正証書に関しても、「最初からガチガチに決めておきたい、といった理由ではなく、結婚していることの証が欲しいという気持ちや、お互いの安心材料の一つとして、約束事を形にしておきたいという気持ちの表れもあると思います」と、その精神面での利点を挙げる。 公正証書を作成すれば、日常で具体的に役立つ例も想定できるという。分娩時の立ち会いや救急搬送時など、病院で配偶者であることを証明できないと立ち入れないケースも多くある中、「こうした場で事実婚を証明する上で、公正証書は役に立つと思います」と話す。 「2人ではなく3人、100人でも、当事者全員が納得していれば、事実婚は成立可能」と國松弁護士。「ただ、それはあくまで当事者間の気持ちや合意の中でのこと。契約で何とか法律婚と同じような状態を実現できたとしても、自分たち以外の社会が100人婚を受け入れるのか、これに合わせたルール作りを進めていくのかは、また別の問題」とも続け、本当の意味で法律婚と同じような扱いを受けるためには、「やはり社会がそれに追いついていくというプロセスが必要になってくる」と、受け皿になる社会の在り方についても触れた。

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