英国、EV規制を緩和 ハイブリッド車は2035年まで販売可能に 「トランプ関税」の影響も

業界の「声」に耳を傾けた 米国が輸入車に25%の関税を課したことを受け、英国政府は自動車業界への支援策として、ゼロ・エミッション車(ZEV)規制の枠組みを大幅に緩和した。 【画像】世界のどこでも愛されるクルマ【欧州仕様のトヨタ・カローラを写真で見る】 全24枚 この一環として、日産キャシュカイeパワーのような「フルハイブリッド車(ストロングハイブリッド車)」の販売は2035年まで継続できること、少量生産の自動車メーカーは2030年までにEVの新車販売比率を80%に引き上げる規制が免除されること、また、すべてのメーカーは年間EV販売目標の達成をより柔軟に目指せることが明らかになった。 メーカーに一定割合以上のEV販売を義務付ける英国のZEV規制が緩和された。 昨年末、EVの需要が政府目標値を大幅に下回り、自動車メーカーの利益を脅かしていることを受け、英国政府は業界各社と協議の上で規制を見直すことを約束した。 現在の規制では、自動車メーカーは2025年内にEV販売比率を28%(新車の4分の1以上)に引き上げることを義務付けられているが、最近の市場データによると、需要はそれを8ポイント以上下回ることがわかっている。 EVの割引販売など、メーカー各社が数十億ポンドを投じて需要喚起に注力した結果、昨年のEV販売比率目標である22%は達成された。その後、英国政府は緊急課題として規制の見直しに動いていたが、ドナルド・トランプ米大統領が外国製自動車すべてに25%の輸入関税を課すことを発表した先週、対応の必要性はさらに高まった。関税は、昨年生産量の27%を米国に輸出している英国の自動車産業にとって大きな打撃となる。 その結果、英国のキア・スターマー首相は「世界が不安定な時代においては、政府は『変化に向けた計画(Plan for Change)』を通じて、より迅速に経済の再構築を進める必要があります」と述べ、変革を加速させている。 政府は、この変革により「業界がEVへのアップグレードを容易に行えるようになると同時に、2030年までにガソリンおよびディーゼル車の新車販売を停止するというマニフェストの公約が果たされ、より多くの英国の消費者が低価格のEVというメリットを享受できるようになります」と述べている。 また、夏には「現代の産業戦略」を発表し、改訂されたZEV規制をフォローアップする予定である。 英国政府は、関税の影響を相殺するためにトランプ大統領と新たな貿易協定の交渉を試みているが、交渉が不調に終わった場合に備え、報復措置のリストを作成している。 政府は、「新たな関税の影響が明らかになるにつれ、自動車産業への支援は継続されるだろう」と述べた。 業界団体である英国自動車製造販売者協会(SMMT)のマイク・ホーズ会長は、この緩和策を正しい方向への一歩であると歓迎し、次のようにコメントした。 「政府は業界の声を聞き、メーカーが強い圧力にさらされていることを認識しました。業界は引き続き道路輸送の脱炭素化に取り組みますが、特に消費者需要の低迷や地政学的な混乱を考慮すると、ZEV規制の目標は非常に厳しい。しかし、EVの需要を必要なレベルまで引き上げるには、自動車ユーザーが安心して乗り換えられるよう、同様に大胆な財政的インセンティブが必要です」 「規制改正の詳細が待たれますが、米国の関税導入によりメーカーが直面する可能性のある厳しい逆風を考慮すると、業界の競争力を守るためには、より積極的な行動がほぼ確実に必要となるでしょう。英国と米国の交渉は速やかに進めなければなりません。また、待望の産業戦略および貿易戦略は自動車を優先し、迅速に実施されるべきです」 「この大きく変化した世界において、特にサプライチェーンを支える一連の対策が必要です。そうすることで、わが国に必要な経済成長、雇用、投資を実現することができます」 ハイブリッド車は2030年以降も販売可能 英国政府は、ハイブリッド車の販売を2035年まで継続させることで、「移行を容易にし、業界に準備のための時間を与える」ことができるとしている。 先月、英国ではプラグインハイブリッド車(PHEV)の登録台数が前年同月比で37.9%増加し、マイルドハイブリッド車を含むその他のハイブリッド車も27.7%増加した。これにより、部分的に電動化されたクルマの市場シェアは合計で25%となり、純粋なEVの20.7%を上回った。 日産の『eパワー』車など、いわゆるフルハイブリッドモデルも2035年まで販売が可能になる。 今から5年前、ボリス・ジョンソン前首相は2030年までにエンジン搭載車の新車販売を禁止する方針を打ち出し、一方で「十分な電気走行距離」を持つ一部のハイブリッド車についてはさらに5年間販売を継続することを認めた。ただし、「十分な」の定義は一度も示されたことがない。 政府は現在、2030年から2035年の間は「フル」ハイブリッド車(HEV)とPHEVモデルの販売を認めるとしているが、具体的な仕様要件はまだ提示されておらず、代わりにいくつかの例が挙げられている。政府は、トヨタ・プリウスをHEVの一例として挙げているが、このモデルは現在、英国ではプラグインハイブリッド車としてのみ販売されている。また、電気駆動だが、ガソリンエンジンにより小容量の駆動用バッテリーを充電する日産のeパワー搭載車も挙げている。 政府は、2030年以降、メーカーは「ガソリン車およびディーゼル車のCO2排出量を2021年比で10%削減する」必要があると述べている。 AUTOCARは、マイルドハイブリッド、レンジエクステンダー、従来のフルハイブリッドにとって、この新しいルールが具体的に何を意味するのか、運輸省に問い合わせている。 それでも、この発表は、EVの需要が予想よりも伸び悩む中、ラインナップの脱炭素化を目指してハイブリッド技術に多額の投資を行っている自動車メーカーにとって、大きな安心材料となるだろう。 例えば、トヨタは以前、英国バーナストン工場で生産しているカローラのようなフルハイブリッド車が、2030年にガソリンエンジン車との併売が禁止された場合、英国での事業に「大きな影響が出る」と警告していた。 また、キアの英国部門代表であるポール・フィルポット氏は最近、AUTOCARの取材に対し、2030年以降のハイブリッド車の販売に関する明確な方針が示されれば、「その期間における製品ラインナップに関する最終的な決定を下すのに役立つ」と語っている。 SMMTは以前、政府に対して「ハイブリッド、プラグインハイブリッド、水素など、すべての技術が、2035年までにゼロ・エミッション市場への足がかりとして、あるいはその完全な実現として、道路輸送の脱炭素化に果たす役割」を認識するよう強く求めていた。 一方、政府は商用車について、ハイブリッドやプラグインハイブリッドとともに2035年まで純エンジン車の販売を継続できるとしている。 メーカーがZEV義務化の目標を達成できなかった場合の罰金も、1台あたり1万5000ポンド(約280万円)から1万2000ポンド(約225万円)に引き下げられた。 フォード英国部門代表のリサ・ブランキン氏はこのニュースを歓迎する一方で、購入者にEVへの乗り換えを促すためには、さらに多くの対策が必要だと語った。 「政府のZEV義務化に関する協議への対応は、正しい方向への小さな一歩ではありますが、特に厳しいEV市場の状況に対処するには不十分です」 「フォードは、罰金を軽減するための新たな柔軟性の導入と、ハイブリッド技術が2030年以降も許可されることを歓迎しますが、実際のメリットを評価するためには詳細を待たなければなりません。フォードは、幅広いEVをお客様にお届けするために、製品開発、製造、マーケティングに数十億ポンドを投資してきました。英国に必要なのは、消費者がEVに乗り換えるのを支援する真のインセンティブです」 少量生産メーカーは規制の対象外 ZEV規制の改訂により、「少量生産および超少量生産」メーカーはZEV目標と2030年から2035年のハイブリッド車要件の適用が除外される。大手企業とは異なり、2030年までに80%のEV販売比率を達成する必要がなくなった。 政府は、免除が認められる企業の具体的な例としてマクラーレンとアストン マーティンを挙げているが、「少量生産」の定義は年間2500台未満を生産する企業すべてに適用される。 年間生産台数が少ないモーガン(写真)のようなメーカーは電動化への猶予期間を与えられた。 この決定について、「英国自動車産業の最も象徴的な宝石のいくつかを、今後何年にもわたって存続させる」のに役立つと政府は述べている。 現在、アストン マーティンもマクラーレンもEVを販売しておらず、アストンは最近、プラグインハイブリッド・スポーツカーの新ラインナップ構築を優先し、初のEVの発売を延期した。今回の免除措置により、ベントレー、ロールス・ロイス、ロータス、LEVCといった企業も、顧客がエンジン車からEVなどの代替車に移行する時間をより多く確保できるようになる。 この免除は、モーガン、ケータハム、アリエル、ラディカル、BAC、ゴードン・マレー・オートモーティブなどの超少量生産スポーツカーメーカーにも適用される。これらのメーカーはいずれも、まだEVを生産していない。 モーガンの最高経営責任者であるマシュー・ホール氏は最近、AUTOCARの取材に対し、2030年までに純粋なEVを開発するには時間が足りないと述べ、規制の方向性について早急に明確にするよう求めていた。 同氏は、少量生産メーカーに対するZEV規制のルールには「曖昧な部分が多すぎる」と苦言を呈し、2030年にEV販売比率を80%に引き上げる義務が免除されるかどうかによって、モーガンの今後の戦略が完全に左右されると語った。 より柔軟なEV販売目標 ZEV規制の主要目標は変更されていない。つまり、メーカーは今年28%のEV販売比率を達成し、2030年までに80%を目指さなければならない。しかし、非ゼロ・エミッション車CO2取引スキーム(CCTS)の柔軟性が増したことで、規制を遵守しやすくなった。 このCCTSは基本的に、メーカーがCO2削減目標を上回ることで、EV以外のクルマの販売を相殺し、その年に達成すべきEV販売比率の目標値に近づくことができる。 EV販売目標は変わっていないが、目標の達成が比較的容易になった。 CCTS制度の重要な変更点の1つは、2029年までクレジット移転の仕組みを利用できるようになったことである。これまでクレジットは2026年までの3年間しか使えなかった。 これにより、今後5年間は「ハイブリッド車によるCO2削減に対して、大幅な追加的柔軟性」が得られると政府は述べている。 政府は毎年の上限を設定するが、その具体的な内容は未定だ。 一方、EV販売クレジットを翌年以降の年から「前借り」するという仕組みも、これまで2026年までとされていたが、今後は2030年まで可能になる。 つまり、自動車メーカーは、ある年にZEV目標を達成できなかったとしても、翌年で補うことができればよいということだ。ただし、この場合にも上限が設けられる。 現在、2025年の目標EV販売比率28%の半分まで「借り入れ」が認められているが、来年にはこれが4分の1に減少する。 最後に、メーカーは今後、商用車と乗用車の間でクレジットを交換できるようになる。EVの乗用車1台分のクレジットは商用車のクレジット0.4台分と交換でき、EV商用車のクレジットは乗用車2台分と交換できる。 こうした柔軟性は、ステランティス(ヴォグゾール、プジョーなどの親会社)も前向きに受け止めている。 同社の英国部門のMDであるユーリグ・ドルース氏は、「厳しい地政学的な事業環境と自動車業界への高まる激しい圧力」を踏まえ、この決定は「ステランティスが規制を準拠する上で役立つ」と述べた。 同氏はまた、「EVへの移行が進んでいるとはいえ、ZEV規制のペースにはまだ達していません。当社は、お客様に自由な選択肢を提供できる柔軟性を歓迎します。しかし、市場の需要に対応し、それを刺激する措置を導入する必要性は依然としてあります。この点については、今後も政府と緊密に連携していきます」と付け加えた。

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