政権発足から半年、少数与党の舵取りは難航し、支持率も低迷する石破茂・首相は焦りの色を隠せないでいる。このままいけば、夏の参院選で自民大敗は必至。そうしたなか、永田町では石破首相が「衆参W(ダブル)選挙」という大博打に打って出るとの情報が駆け巡っている。何が起きようとしているのか、そしてどのような結果がもたらされるのか──。【全3回の第1回】 【表】夏の参院選はどうなる? 「参院選 各党議席予測」 衆参ダブル選挙政権延命の“最後の手段” 参院選の投開票日は7月20日。海の日を含む3連休の中日に行なわれる見通しだが、永田町では「衆参ダブルになる」との観測が強まっている。 「解散・総選挙、衆参同日選、連立の組み替え、そのようなことを現在考えているものでは全くない」 石破首相が4月1日の会見でそう否定したことも、“煙幕”だとする声が根強い。 「少数与党の現状では野党が内閣不信任案を提出すれば可決される。そうなれば内閣総辞職か解散・総選挙を迫られるが、総理は商品券問題で総辞職することなど考えてもいないから、衆院を解散してイチかバチかの同日選を仕掛けるだろう」(自民党ベテラン議員)との見方があるのだ。 というのも、自民党には過去2回行なわれたダブル選挙で衆参ともに大勝した成功体験がある。衆参の候補者の後援会が協力し合い、自民党の支援組織がフル稼動することから票の上積み効果があるとされる。 参院選を1か月後に控えた国会会期末(6月23日)近く、参院選に向けて弾みをつけたい野党は足並みを揃えて内閣不信任案提出に動くはずだ。その時、可決される前に石破首相が衆院解散に踏み切る。そうすれば7月20日投開票の衆参同日選挙が可能だ。支持率ジリ貧で参院選敗北が見えている石破首相にとっては負けを小さくして政権延命するための“最後の手段”でもある。 だが、選挙情勢分析に定評がある政治ジャーナリスト・野上忠興氏は「ダブル選になれば自公政権は衆参ともに過半数を失い、石破退陣は決定的になる」と指摘する。 「昨年10月の総選挙で自公は衆院の過半数を失ったが、内閣支持率、自民党の政党支持率ともにあの頃より下がった。全国の情勢分析を重ねても、石破首相が衆参同日選を仕掛ければ参院選にプラスになるどころか、衆院の議席をもっと減らす結果になるとみられます」 本誌・週刊ポストは野上氏の協力で参院選の詳細なシミュレーションと、衆参ダブル選になった場合の衆院各党議席の増減を予測した。 自民党の参院1人区は「最大24敗」の予想 今回の参院選は、政権を懸けた「天下分け目の戦い」になる。 「勝敗ラインは過半数を死守することだ」 森山裕・自民党幹事長は参院選の目標をそう掲げた。 衆院で少数与党の石破政権がなんとか政権を維持できるのは、参院で過半数を持っているからだ。予算審議でも、与党は衆院で立憲、国民、維新と個別に修正協議を行ない、最終的には自公+維新の賛成で予算を成立させた。だが、参院でも過半数を失うことになれば、自公だけで政権維持は難しい。連立組み替えや政界再編、あるいは政権交代を迫られることになる。 今回の参院選は自公にも有権者にとっても、政権選択選挙である。 森山氏が死守を目標にする過半数には自公で50議席が必要だ。自公の現有議席は141議席(過半数は125)、そのうち非改選が75議席ある。「自民党はかなり議席を減らすだろうが、過半数はなんとかなる」(自民党選対関係者)との見方は多い。 ところが、野上氏の予測結果は、「自民34議席」「公明11議席」の大惨敗となった。 とくに勝敗の鍵を握る32の1人区で自民は最大24敗を喫するドミノ現象が予想される。比例代表の議席も過去最低の13議席と、非改選を合わせて自公は121議席前後(自民系無所属含む)まで減らし、参院過半数割れとなる可能性が高い。 「台風の目となるのは国民民主党とれいわ新選組。『消費税減税』を掲げるれいわは20〜30代の若い層に支持を伸ばし、『サラリーマンの手取り増』を訴えてきた国民民主はいまや若い層から高齢層まで支持を集めている。いずれも昨年の総選挙よりさらに票を伸ばすのは間違いない」(野上氏) その国民民主(改選4議席)は22議席前後へと大躍進、れいわ(改選2)も5議席が期待できる。立憲民主も勢いはないが選挙区では「反自民」票を集めて議席を伸ばしそうだ。 各党の参院選予想獲得議席は別掲表にまとめたが、野党合計127議席となり、与党を逆転する見込みだ。 「有権者は自公政権ではなく、政権の枠組みを変えることを求めている。そうした傾向は昨年10月の総選挙からはっきりしていた。前回総選挙の自民党の得票率を見ると、選挙区(38%)も比例代表(27%)も、自民が惨敗して民主党に政権を奪われた09年総選挙と同じ水準まで落ち込んだ。比例得票数は2009年よりさらに400万票も減っている。自民支持層が自民から離れたんです。政権交代にならなかったのは野党の票が分散したからに過ぎない」(野上氏) (第2回に続く) ●レポート/野上忠興(政治ジャーナリスト)と本誌・週刊ポスト取材班 ※週刊ポスト2025年4月18・25日号