一族総出でチケットを売り、倍賞美津子さんが宣伝カーでアナウンス…アントニオ猪木の実弟が振り返る、新日本プロレス「黎明期の思い出」

2022年10月1日、79歳で亡くなったアントニオ猪木。今なお熱烈なファンを擁する猪木だが、世に喧伝されるそのイメージは二重三重の皮膜に包まれてきた。 話題の新刊『兄 私だけが知るアントニオ猪木』(講談社刊)は、猪木家の末弟である啓介氏から見た、5歳年上の兄・猪木寛至の「人間の記録」だ。ブラジルへの移民、力道山との出会い、新日本プロレス、政治と事業、4度にわたる結婚、そして晩年の兄弟断絶と闘病。70年余に及んだ兄弟の歴史がすべて記されている。 1971年、猪木は「会社乗っ取り計画」の首謀者として日本プロレスから除名された後、29歳で新団体「新日本プロレス」を旗揚げする。「新日本」は1973年に『ワールドプロレスリング』中継が始まったことで、徐々に上昇気流に乗るようになったが、その初期陣容は実に貧弱だった。営業マンに任命された啓介氏は、長年のブラジル生活から帰国したばかりで日本語の読み書きも危うい状態。そんな身内を総動員しての営業部隊だった。 『兄 私だけが知るアントニオ猪木』(第23回) 黎明期は綱渡り経営が続いた 営業初心者の私が最初に担当したのは、茨城県の下館市(現・筑西市)だった。旗揚げ翌月の4月4日、下館市の青果市場(特設リング)で興行を打つことになっていたが、これには理由がある。下館に本社を構えるエネルギー商社「関彰商事」の経営陣が母方の親類だった関係で、全面的なバックアップを受けることができたからである。 かつて東京プロレスを旗揚げした経験がある兄貴も、最初から難しいエリアを私に託しては荷が重いと判断したのだろう。3月6日の旗揚げ戦も大事ではあったが、すでにその後の巡業コースも切られているから、旗揚げ前から準備に取りかからないと間に合わないのである。 幸い、地元の有力企業である関彰商事がチケットを捌いてくれたおかげで、下館の会場は満員にすることができた。旗揚げ戦の大田区体育館もそうだが、黎明期の新日本プロレスは、選手やスタッフの人脈、コネクションを最大限に活用し、何とか団体経営を軌道に乗せていくという綱渡りのような日々だった。 当時の思い出は尽きないが、この労苦の時代を知る人はいまや少なくなった。背広組では私と大筭直樹さん。選手では藤波さん、北沢幹之(魁勝司)さんくらいである。 倍賞美津子さんが宣伝カーのアナウンスを担当 倍賞美津子さんも新日本プロレスの旗揚げには全面的に協力してくれた。これは有名な逸話だが、宣伝カーに取り付けたスピーカーから流していた興行の告知アナウンスは、美津子さんにお願いしてテープに吹き込んだものである。 「〇月△日、××体育館。新日本プロレスのチケット、絶賛発売中です!」 当時は、まるでさおだけ屋のように宣伝カーを走らせて新日本プロレスをアピールしていたわけだが、エンドレステープはまだなかったので、録音は片面15分、両面で30分、ずっと吹き込みを続けなければならない。しかも会場が変わればそれを使いまわすことはできないから、試合のたびに新規の録音テープを作らないといけないのである。 売れっ子女優だった美津子さんは、それを喜んで引き受けてくれた。日頃、セリフ読みの訓練をしている美津子さんが原稿を読み上げると、新日本のスタッフは必ずといっていいほど感嘆の声をあげた。 「プロは全然違う。さすが女優さんだ」 歌手でもある美津子さんは音響技術にも明るく、バックミュージックを流して告知を読み上げるという「新技」を編み出し、これが大好評だった。もしあのときのテープがいま残っていたら、大変なお宝になっていただろう。 ひとつの「ファミリー」だった猪木家と倍賞家 兄貴とはその後、長い付き合いになる「鉄ちゃん」こと倍賞鉄夫さんも、兄貴に言いくるめられて新日本に入社した一人である。新日本で長くリングアナとして活躍した鉄夫さんは美津子さんの実弟で、日大時代は学生運動に明け暮れていた「闘士」だった。 大学を出た後は姉の倍賞千恵子さんの運転手をつとめていたが、新日本の旗揚げを機に営業として入社。途中から大筭さんに代わって2代目のリングアナをつとめた。当時から日産の高級車「フェアレディZ」を乗り回していたが、これは鉄夫さんの兄・倍賞明さんが、社会人野球の日産自動車で活躍していた関係だろう。 新日本プロレスがまだ旗揚げ戦を迎える前、猪木家と倍賞家で旅行に行ったこともある。私たちはいつも和気あいあいとした、ひとつの「ファミリー」だった。 練馬の自宅に集まることもあり、そこには新日本のレスラーに加え、倍賞千恵子さんや明さん、そして日産自動車野球部の選手、明さんの出身校である日大三高、日大の野球部員まで押しかけ、大変な人数だった。明さんは、センバツで準優勝も経験した甲子園のスター選手である。 そんなとき必ず催されるのが、ブラジル仕込みのバーベキュー大会である。シュラスコと言えば私にとってはお手のもので、そこではもっぱら作り手に回っていたが、大勢の野球部員にプロレスラーもいるから、とにかく食べる量は半端ではなかった。 「新日本プロレス、頑張ろうな!」 それが当時の私たちの合言葉だった。兄貴は29歳、私が24歳のときである。 警察は「演出」を疑っていたが…アントニオ猪木「新宿伊勢丹襲撃事件」居合わせた実弟が語る「真相」

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