韓国のヒットメーカー、リュ・スンワン監督による「ベテラン 凶悪犯罪捜査班」(4月11日公開)は、熱血ベテラン刑事を主人公にした犯罪アクションだ。 正体不明の連続殺人犯とのスリリングな攻防、極上のアクション、そして、韓国のトップスター、ファン・ジョンミンが演じる、どこまでも人間くさい主人公の魅力に、引き込まれずにはいられない。もう一人の主演俳優、チョン・ヘインの鮮烈な演技も見逃せない。(編集委員 恩田泰子) 2015年に公開された「ベテラン」の続編。主人公は、前作に引き続き、ファン・ジョンミンが演じるソウルの刑事、ソ・ドチョル。割に合わない仕事とぼやきながらも、同じチームの仲間とともに、刑事の仕事に体を張っている。プライドも持っている。 新たに取り組むことになったのは、犯人不詳の連続殺人事件の捜査。被害者の共通項は、かつて誰かを死に追いやっていたこと、そして、その罪に対する法の裁きが不十分だと批判の声があがっていたこと。世間では、一連の事件の犯人を、善悪を裁く伝説の生きものになぞらえて「ヘチ」と呼び始めていた。 ヘチをヒーロー視する者たちが起こす狂騒の中での捜査、さらには次なる標的の警護と、ドチョルたちの苦労は増える一方。勇敢な若い警官パク・ソヌ(チョン・ヘイン)を、新人刑事としてチームに加えるが——。 世間の人々がくすぶらせる処罰感情が、ゆがんだ形で吹き出して、世の中を揺るがす。扇動的な言説がインターネットを介して広がっていく。現実社会の問題を巧みに映した状況と、ドチョルたちは文字通り、格闘する。 おそらく、多くの観客が、映画が始まってほどなく、ドチョルたちのことが好きになるだろう。 オープニングを飾るのは、チームによるおとり捜査の一幕だ。前作同様、女性刑事ミス・ボン(チャン・ユンジュ)がこってりと変装して裏カジノに登場。そこから始まる一夜の騒動が、豪勢かつユーモラスに描かれる。アクションと笑いを小気味よく盛り込んだチャーミングなお楽しみシーンだが、面白がって見ているうちに、チームの面々の実力がわかる。人間関係がわかる。経験値がわかる。それぞれの人柄、心意気がアクションを通して鮮やかに描き出される。 アクションの名手、リュ・スンワン監督は、映画に登場するあらゆるモーション(動き)から、観客のエモーション(感情)を喚起する。不自然な説明、過剰な顔面演技は、この映画にはほとんど見当たらない。 階段を生かしたチェイス、雨により水場と化した屋上での激闘、そして、終幕の対決現場。ダイナミックなアクションを連打する数々の見せ場は、どれもパワフルで濃密。構図的にも美しい。それらは、オープニング同様、ただのアトラクションではなく、人間描写でもある。どんなふうに走るか、どんなふうに戦うか。一挙一動が登場人物のキャラクターを物語る。 コミカルなシーンもしかり。ドチョルの上司オ・ジェピョン(オ・ダルス)をはじめ前作からの仲間たちの言動に、思わず笑ってしまう瞬間も多々あるが、それは単なるギャグではなく、彼らの素朴さ、純粋さのあらわれにもなっている。軽口や乱暴な態度から、それとは裏腹の人の良さ、チームの信頼関係が伝わってくる。 では、新人刑事ソヌは? ある意味、ぬえのようなこの現代的な人物を、チョン・ヘインは実にすばらしく演じて、この人間活劇を一層面白くしている。 作品全体のモーション、エモーションをカメラの後ろでつかさどる存在はリュ・スンワン監督だが、カメラの前での牽引(けんいん)役は、もちろん主演のファン・ジョンミンだ。 映画の真ん中にいるドチョルは、現実世界の人間の多くがそうであるように、完璧ではない。失敗もする。後悔も抱える。苦境にある我が子をすんなり救い出すこともできない。 ただ、ファンは、その陽性の演技をもって、ドチョルの不完全さを人間くさい魅力に変換し、観客を引き付け、共振させる。アクションシーンやふとした沈黙を通して、彼の心身の痛みを伝えながら。 その痛みがちゃんとリアルに感じられるからこそ、乗り越えようとする姿にぐっと来る。乗り越えた時に、スカッとする。まさに痛快。さらに、一仕事終えた彼が戻っていく日常がこよなくいとおしく映る。偽りのヒーローが跋扈(ばっこ)する世界にあっても、見失いたくないもの。それを見つけたような心持ちにさせられる。 食事シーンもさりげなく印象に残る映画。気取らず一緒に食事ができる間柄か否かは、本作の人間関係描写においても、実人生においても、結構、重要なポイントだろう。 ちなみに、第2作の公開を前に、第1作「ベテラン」の「カムバック上映」(4月4日から1週間)も用意されている。予習復習をしたい人は、どうぞ。 ◇「ベテラン 凶悪犯罪捜査班」=2024年/韓国/118分/字幕翻訳:根本理恵/配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス=4月11日全国公開