羽田空港ターミナルビルのマッサージチェア（ＭＣ）事業を巡る利益供与疑惑で、「日本空港ビルデング」（東京）の横田信秋社長兼ＣＯＯ（最高執行責任者）（７３）が２０２１年、当時契約していたＭＣ販売会社の幹部と面会し、国税当局から業務実態がないと認定された東京都内のコンサルティング会社への利益供与を求めていたことがわかった。 　読売新聞は面会内容を録音した音声記録を入手した。（吉沢邦彦、駒崎雄大） マッサージチェア事業巡り 　空港ビル社の１００％子会社「ビッグウイング」（東京）は、古賀誠・元自民党幹事長（８４）の長男（５２）が営むコンサル会社に１６年までの５年間で業務委託費として約１億円を支払った。実際のＭＣ業務は下請けに入った業者がほぼ全て実施し、東京国税局から経費とは認められないとして所得隠しを指摘された後も、別会社経由で支払いが続き、総額では２億円近くが渡ったことが判明している。 　関係者や本紙が入手した資料によると、ビッグ社は２０年１２月にＭＣ販売会社と契約を結んだ。利用者が支払う使用料の分配はビッグ社が２割、ＭＣ販売会社が８割だったが、ビッグ社幹部が２１年６月頃、コンサル会社への支払いのため、ＭＣ販売会社分を５割に引き下げると伝えた。翌月に横田氏とＭＣ販売会社幹部が交渉することになった。 　面会の音声記録によると、横田氏は、過去にＭＣ業務を担っていた業者からコンサル会社に対して「紹介料」が支払われてきたと説明。長男側との関係を持ち出して「これまでのお付き合いというものがあり、それを切るわけにはいかない」と発言し、減額に難色を示すＭＣ販売会社幹部の説得を試みた。 　さらに横田氏は、ＭＣ事業はもともと長男側からの紹介で始まったものだとし、「ゼロベースはまずいんじゃないか」と強調。「紹介料じゃないけれど、やっぱりある程度は斟酌（しんしゃく）してもらえれば」などと繰り返し利益供与への同意を求めた。 　横田氏は「解決策について、場合によっては古賀さんと会う」とも述べ、減額幅について自ら長男と話し合う意向を示していた。その後に結ばれた新たな契約では、ＭＣ販売会社の取り分は７割とされた。 　本紙は音声記録について、専門機関に鑑定を依頼。音声が横田氏のものであることを確認した。 　横田氏は昨年１２月の取材で、子会社への国税当局の指摘後も長男側に対する利益供与が続いていたことについては、「わからない」と話した。ＭＣ販売会社幹部との面会で、長男側への利益供与を求める発言をしたかどうかについては「（幹部と）あいさつで会ったことはあるが、そんなことは言っていない」とした。長男との交流に関しては「年に１、２回会って、航空業界の話をするくらいだ」とした。その後の取材には応じていない。 国交省が調査要請 　国土交通省は３日、空港ビル社に対し、事実関係を確認した上で適切な説明をするよう要請した。同省幹部は、「高い公益性が求められる空港旅客ターミナル事業者として、国民や利用者の信頼を損なわないよう、空港ビル社が調査を尽くし、説明責任を果たすことが重要だ」と語った。 　空港ビル社は３日、自社のホームページで、コンサル会社との取引の実態などに関する内部調査の実施について発表。「社外取締役のみで構成される監査等委員会が主体となって事実関係の調査を実施しており、結果は速やかに公表する」としている。 　本紙の取材に対し、空港ビル社の担当者は、国交省から調査の要請を受けたことについて、「重大な事案として真摯に受け止め、監査等委員会の調査に精いっぱい協力する」と話した。 　◆日本空港ビルデング＝１９５３年設立。東証プライム上場の民間企業で、空港法に基づき、国から羽田空港の「空港機能施設事業者」に指定されている。国に年約４０億〜５０億円を支払い、同空港内の国有地を使用する許可を得てターミナルビルなどを運営している。２０２４年３月期の連結売上高は２１７５億円。