今なお語り継がれる高山善廣とドン・フライの壮絶な殴り合い

話題の新刊『高山善廣評伝ノーフィアー』(ワニブックス刊)は、「プロレス界の帝王」と呼ばれ、頸髄完全損傷の大ケガとの不屈の闘いを続けている高山善廣の足跡(そくせき)にレスラー、家族、関係者の証言から迫った1冊である。 藤田和之との激闘後、高山はついに新日本プロレスにも上陸。プロレスと総合格闘技の「二刀流」として大活躍する。そして「PRIDE最高の名勝負」と謳われ、人々の記憶に英会陰に残るであろう、あのドン・フライ戦との試合を迎える。 ピンチヒッターとして再びPRIDEのリングへ 藤田和之との死闘後、高山善廣は新日本プロレスのリングにも上陸し、新日本の至宝・IWGPヘビー級王座にも挑む。初挑戦・初奪取こそならなかったものの、同じく評価を上げた永田裕志はその後、長期政権を築いていく。 一方、NOAHのリングでもっとも多くタッグを組むようになったのは杉浦貴である。杉浦は天皇杯・全日本選手権大会でグレコローマン82kg級優勝などの実績を持つレスリングの猛者。そんな杉浦のPRIDE初参戦が2002年6月6日に発表された。プロレスラーになる前から総合格闘技の試合をやってみたいと思っていたが、高山がなんでもありのリングで闘う姿を見て、杉浦の気持ちもより強まった。出場が決定するとシリーズ巡業中、PRIDEのラウンドを想定した20分(1R10分、2&3R5分)スパーリングのパートナーを高山に務めてもらった。 杉浦が出場する6月23日のPRIDE.21 が10日ほど前に差しかかったタイミングで、高山に思わぬオファーが舞い込む。メインイベントでドン・フライと対戦予定だったマーク・コールマンが、練習中に頚椎を痛め欠場することとなり、そのピンチヒッターとして白羽の矢が立てられたのだ。 大会までの時間を考えれば常識的には考えられぬオファーだが、主催者は高山に託すしかなかった。それでも断ろうと思えば、断れただろう。しかしながら、まだPRIDEで実績を残せずにいる自分が元UFC王者のフライと対戦するなど、望んでも実現しないはず。また、杉浦のパートナーとしてそれ用の練習はやっている。高山のPRIDE緊急参戦は、6月15日の会見で正式に発表された。本番8日前だった。 高山はコメントを求められると「精神力の闘いになるんじゃないですか。ギブアップの言葉を絶対に吐きそうもない。でも、壊しちゃえばおしまいなんで」と答えた。この時点で「あのような試合」になることを高山は予見していたのだろうか。 会場が興奮のルツボと化した漢(おとこ)同士の殴り合い! UWFインターナショナルでともに濃密な時間を過ごし、PRIDEにおける闘いを至近距離から見続けた一人、和田良覚レフェリーが当時を述懐する。 「僕はUインターが解散したあと、キングダムを経てリングス、パンクラスでレフェリーをやるうちにPRIDEでも裁くようになったんですけど、その頃の高山くんは全日本(プロレス)でバリバリにやっていたので別々の道を歩んでいた。でも友人としての交流は続いて、相変わらず何かあると相談していたんです。その中で、総合格闘技の流れができて、それとどうかかわればいいかという話はしていた記憶があります。そんな高山くんがPRIDEに参戦するとなった時は『あのサイズなんだから、ヤバいやつとやることになる。これは注目されるぞ』と思いました。既成のプロレスの中でステータスを築いていたわけで、そこだけでもやっていけたはずなんですよ。でも、あえてイバラの道を選ぶんだなと。その中で、PRIDEに対する恩義を感じていてフライ戦に出ようと思った気がします。あの大会は、高山くんがPRIDEを救った回ですよ」 高山のPRIDEにおける3戦はすべてメインイベント。いずれもルールディレクターの島田裕二がレフェリングを務めたため和田自身は裁かず、ジャッジとしてリングサイドから見守った。 第6試合で杉浦がダニエル・グレイシー相手にフルラウンド闘い抜き、1−2の判定で敗れたあと、エメリヤーエンコ・ヒョードルvsセーム・シュルト戦をはさみ最終試合へ。さいたまスーパーアリーナに詰めかけた2万2568人の大観衆は、両者のファイターとしての姿勢や戦前のコメントから激しい試合になることはある程度予想していたと思われる。 ところが開始のゴングが鳴った時点で、それを遙かに上回る光景が、熱風のように客席へと到達する。いきなりお互いが首をつかみ合った状態となり、ノーガードのままオープンフィンガーグローブで殴り合う。相手の攻撃をいかに防ぐかが鉄則の格闘技にありながら、両者が見せたのはプロレスラー魂。みるみるうちに高山の顔面が変形し、フライの顔も腫れていく。 その後、ヒザ蹴りを入れた高山だがドクターチェックが入り中断。再開直後、反り投げを狙うもフライが防ぎマウントになるやパンチを連打。ここでレフェリーがストップした。 わずかな準備期間で臨んだこの一戦もセコンドについた金原弘光は「相手は自分よりも小さいんだから、とにかくヒザ蹴りを入れていくように」と作戦を授けていた。だが始まるやいなやパンチで殴り合ったため、しきりに「ヒザ! ヒザ!」と指示を飛ばした。途中、一発入ったのは、その声に従ったからだ。 「僕の中で高山=ヒザ蹴りというのがあって。Uインター時代、キックのコーチだったボーウィー・チョーワイクンが『タカヤマのヒザがナンバーワンだ。突き出す力があるので迫力も凄い』といつも言っていて、その練習ばかりさせていたのを見ているんです。でも、スタートの時点で熱くなっちゃったんでしょうね。冷静にいって、確実にヒザを入れていたら勝てたかもしれないけど、あのような今でも語り継がれる試合にはならなかったかもしれない。あれでよかったんだと思います」 「殴られるのが仕事だから」高山が試合後に見せた矜持 総合格闘技の歴史の中で、指折りのドツキ合い。急きょ組まれた一戦が、PRIDE史上に残るベストバウトとなるのだから、物事は何がどう転ぶかわからない。現場で取材した「週刊ゴング」編集長の金澤克彦は、試合を終えた選手たちがリングサイドでこの試合を見ながら大拍手を送り、観客より大喜びする様子を今も鮮明に記憶している。 「藤田(和之)も『あれがプロレスラーですよ!』と賞賛していたけど、フライにもプロレスラーの部分があったからその波長がピッタリ合った結果、ああなったと思うんです。あの試合の何が凄かったかというと、それまでのPRIDEや格闘技の常識を覆してしまったこと。だから僕は、プロレスでも格闘技でもないあの二人だけの何かを見せられた気がしました。技術的にもっと素晴らしい試合はたくさんあると思いますけど、僕の中では総合格闘技の中でもっともインパクトがあった一戦であり、あれで高山善廣の存在価値は決定的なものになりましたよね。僕は子どもの頃からボクシングやキックも相撲も好きだったので、格闘技も書けると自負していたんですけど、総合の試合で拳によってドラマを描けるものなんだと思わせてくれた闘いです」 顔面崩壊といっていいほどのダメージを受けながら、高山はバックステージコメントに応じた。和田は4歳の息子を連れてきていて、いつもかわいがってくれる善廣お兄ちゃんに会いたくて控室へ入っていった。ところが「おう、見てくれたのか」と高山が振り向くや途端に泣き出し、控室から飛び出しパパに抱きついた。やさしいお兄ちゃんの顔が、お化けのように変わり果てていたためだ。 「せがれにとって、高山くんは大きくて強い男の象徴です。それがとんでもない顔になっていて、ショックだったんでしょう」 子どもがトラウマになるような顔面を、週プロはドアップで表紙にした。確かに特大のインパクトがあったものの後年、高山は「するんだったら鼻毛ぐらい補正してよ!」と突っ込んでいた。 和田の息子だけではない。この日は、妻の奈津子も2階席で観戦していた。常識的には目の前で身内がこんな目に遭ったら即卒倒だが「さすがにいかないとまずい」と思い控室へ向かっただけで「殴られるのが仕事だから」と冷静だったという。 「あの試合は顔があそこまでヒドいことになったから心配していただいたんですけど、今まで表に出ないダメージをプロレスの試合で負う姿を見てきたんです。皆さん、凄かったと言ってくださいましたが、私は子どもの喧嘩みたいだと思って見ていて。とにかく殴りたいだけで、あそこまでやり合ってしまう。オモチャを集めたりするところもそうですけど、今もそういう部分を持ち続けた人なんです」 井上尚弥が初めて戦った世界王者は「酒浸り」になっていた……突然呼吸が乱れ、頭痛がするメキシコでみた驚きの光景

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