雷雨が近づくとき 空は厚い暗黒の幕で広がり 風は樹木の梢を激しく揺らし 雨の気配が地表へと滴の線を引く前から 身体の奥へと冷たい湿りを染み込ませる この街で暮らす者は まだ日常の流れを止めたくはないが いつもより深く息を吸い 雨粒の音に耳を澄ませる この風景は遠い山脈のかすかな影を映し 出会いと別れを ひとときのうちに見せる 路上の水は ざわめく音を生み 店舗の看板やネオンの色を 柔らかい雫のステンドグラスのように かすませる 息を継ぐときに残る湿った匂いは 土の匂い 草の香り 雨水の冷たさと混ざって 背中の皮膚を 引き締める 雨は街路樹の葉をつややかに濡らし 極端に増えた水の音は 物語を運ぶように 地下道の静寂を揺らし 風が強ければ ルーフィングの端から滴がこぼれ 落ちてくる光の反射は 水たまりの境界を 滑らかに引き延ばす 稲光の瞬きが 夜の影を ほんのひとときだけ 列席者へと変え 看板の縁の角を 光で震わせるようにして 道行く人の動きを ほんの少しだけ遅らせる そして雨の音は さらに重ねるように 地面へ波紋を描き 静かな時間をつくる 雨の止む兆しは 見えるようで見えず しかし風景は すべての人の心に 新たな静けさを落とす ひとけの少ない路地で 子どもたちははしゃぐ声を 少しだけ落ち着かせ 大人の顔には 何気ない安堵が にじむ 忙しい日常の中で この降り方は ほんの短い休符のように感じら こころの窓を開くことを 教えてくれる 町は濡れたまま 風と雨の音だけが つぎつぎと 連なる時間を刻む ひとつの季節が こうして生まれ ささやかな涙と笑いを 吸い上げていく それは決して怖いだけの現象ではなく 変化の兆しを運ぶ 空気の塊として 私たちの呼吸と心臓の鼓動を 地面へとつなぐ しばらくの静寂が戻るころ 私たちはまた確かな存在として この世界に足を着け 雨あがりの街を まだ濡れているだけの世界として 見下ろすとき 未来の道は 押し殺したような音を取り戻し 私たちはまた歩き出す