ホラー界の旗手ジェイソン・ブラム製作、リー・ワネル監督による革新的なSFアクション映画『アップグレード』（2018）の続編企画は、残念ながら現時点で前進していないようだ。監督として復帰すると報じられていたワネルが、米にて進捗状況を明かしている。 『アップグレード』の舞台は、AIが進化した近未来。謎の組織に妻を殺され、自身も全身麻痺となった主人公グレイは、巨大企業の科学者からAIチップ「STEM」を埋め込まれて超人的な身体能力を手に入れ、妻を殺した組織への復讐を企てる……。2020年5月にドラマシリーズとして製作がされた続編では、映画の数年後を舞台に、さらに進化を遂げた「STEM」で犯罪を抑制しようとする政府と、新たな主人公の物語が描かれると伝えられていた。 © 2018 UNIVERSAL STUDIOS 続編の報道から5年近くが経過した今、ワネルは「『アップグレード』と『透明人間』は同じ状態です」と語った。『透明人間』（2020）とは、ワネルが『アップグレード』ののちに手がけた、ユニバーサル・ピクチャーズ製作のモンスター・スリラー映画。同作と同じく、「結末に満足しているので、創造的には続きを作る必要を感じていない」という。 「経済的には別の問題なので、スタジオは“もっと稼ごう、続きをやろう”と言うかもしれないけれど、アーティストとしての私は、“いい終わり方だったからこのままで”という気持ち。あいまいに、“これからどうなるんだろう？”という謎を残して終わっています。」 もうひとつの理由は、現実世界のテクロノジーがフィクションを凌駕するほどの勢いで成長を続けていることだ。「（『アップグレード』で）私が書いたSFが、今ではどこにでも存在することが本当に信じられない」と語る。プライベートでの外出中、自動運転タクシー・Waymo（ウェイモ）が横を通り過ぎた際、周囲の人々が特に驚かず、もはや反応さえしていなかったことに触れて、こう答えている。 「かつてはSFだったものに、人間がすさまじいスピードで適応していくことには驚かされますし、世界が『アップグレード』に追いつくのを見るのは面白いですね。続編を作ることについては、“もう十分かな、これでいい”という感じ。あの作品がカルト映画として盛り上がり続けて、ある種の予言的な作品だったと思い出してもらえるのなら、それは素晴らしいことです。」 どうやら『アップグレード』の続編ドラマシリーズは凍結状態にあるようだが、『透明人間』の続編企画は2024年4月時点でも進行中。主演を務めたエリザベス・モスは「今が一番いい状態」と、プロデューサーのジェイソン・ブラムも参加していることを認めたが、ワネルの続投については言及していなかった。今回の発言から推測するに、ワネル不在の続編となる可能性も高そうだ。 なお、ワネルは『透明人間』につづくユニバーサル製作のモンスター映画として、『狼男』（1941）をリメイクした『ウルフマン（原題）』が米国公開中。2022年には、『グリーン・ホーネット』の新作映画『The Green Hornet and Kato（原題）』の監督として契約交渉中であることも報じられていたが、こちらの現状は明らかになっていない。 Source: Text: Hollywood, 稲垣貴俊