平野綾、胸にあふれる『ベルばら』愛 現地を訪れマリー・アントワネットの孤独を体感

 子役からキャリアをスタートさせ、声優としてブレイク。舞台俳優としても、確固たる地位を築いてきた平野綾。池田理代子による不朽の名作を完全新作としてよみがえらせる劇場アニメ『ベルサイユのばら』では、気高く優美な王妃マリー・アントワネット(以下、アントワネット)役に抜擢され、激動の人生を体現している。歌唱シーンも交えてドラマチックな愛の物語を描く本作では、アントワネットとして歌声も響かせている平野は「すべての経験が糧となって、パフォーマンスに繋がっているんだと思いました」としみじみ。もともと原作ファンだったという平野が“『ベルばら』愛”をたっぷりとあふれさせるとともに、「好きな言葉は“初志貫徹”」と力強く邁進する原動力を語った。 【写真】平野綾、キュートな笑顔が魅力的!インタビュー撮りおろしショット ◆『ベルサイユのばら』の熱烈なファン! 抜擢に「奇跡だと思います」  原作は1972年から連載がスタートし、革命期のフランスで懸命に生きる人々の愛と人生を描いた漫画『ベルサイユのばら』。50年を超える歴史の中で宝塚歌劇団による舞台化やテレビアニメ化など、数々の方面で社会現象を巻き起こし、少女漫画界に金字塔を打ち立てた。将軍家の跡取りで、“息子”として育てられた男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ(以下、オスカル)。隣国オーストリアから嫁いできた、王妃アントワネット。オスカルの従者で幼なじみの平民アンドレ・グランディエ(以下、アンドレ)。容姿端麗かつ知性的なスウェーデンの伯爵ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン(以下、フェルゼン)。栄華を誇る18世紀後半のフランス・ベルサイユで出会った彼らが、時代に翻弄されながらも、それぞれの運命を美しく生きる姿をつづる。  平野は「母が読んでいた少女漫画を、私も小学生くらいの頃から全部読んでいた」という、『ベルサイユのばら』の熱烈なファン。2022年に六本木ヒルズで行われた『ベルサイユのばら展』にはいちファンとして一人で訪れていたといい、「展示の最後に、劇場アニメ化が決まったというお知らせが掲示されていて。まさかオーディションの話までいただけるなんて思わなかったので、本当に驚きました。全力でオーディションに臨み、今に至ります。令和の時代に、自分が『ベルサイユのばら』を演じることができるなんてまったく想像もしていなかったこと」と喜び爆発。「奇跡だと思います」と熱っぽく語る。  「『ベルサイユのばら』は少女漫画だけでなく、日本の漫画史に革命を起こした作品」と続けた平野だが、それほど好きな作品だけに、アントワネット役に決まった際には「もちろんプレッシャーもあった」とのこと。「母からは『あなたにこの漫画を勧めたからこそ、責任を感じる。頑張ってね』と言われて。映画を一緒に観にいくと約束していますが、少し怖いです」とプレッシャーと共にエールを送ってくれたと苦笑いを見せていた。 ◆胸に抱いた、アントワネットの孤独  平野の“『ベルばら』愛”は聞けば聞くほど本物で、「2019年には、プライベートでベルサイユ宮殿に行きました」とにっこり。「宮殿内をカートでまわれるんですが、その風景を今でも鮮明に覚えています」と濃厚な思い出になっているというが、完成した本編を観て「私が実際に目にしたベルサイユ宮殿、そのままの風景が広がっていました。こんな絵が描けるなんてと思うくらい、リアルでした」と制作陣が時代考証を重ねて取り組んだ背景にも惚れ惚れとし、「吉村愛監督をはじめ、今回のスタッフさんは女性が多く、さらに『ベルサイユのばら』が大好きな方ばかり。現場では、『ベルサイユのばら』に関する“あるある話”がよく繰り広げられていました。みんなが愛を全面に打ち出しているような作品に携われて、ものすごく幸せです」と“『ベルばら』ファン”としても、信頼できるスタッフが揃っていたと声を弾ませる。  実在の人物を演じる時には、いつも「その人に関係している場所に行くようにしている」と役作りにおける裏話を打ち明けた平野。演じるキャラクターが実際にいた場所の空気を感じることは貴重な体験になるそうで、「今回はベルサイユ宮殿を訪れていたことが、アントワネットを演じる上でもとても大切な経験になりました。アントワネットと言えば、ドレスを着てきらびやかな生活をしていたイメージが強いですが、ベルサイユ宮殿に行ってみると、彼女が子どもたちに農作業や家畜の世話などを教えていたこともよくわかります。また鏡の間など豪華な部屋がある一方、静けさを感じるような空間もあって。14歳という年齢でオーストリアから嫁ぎ、誰が味方かもわからない状態で地位を確立し、子どもを産み、育てるという中では、孤独との戦いがあったのだろうなということが肌で感じられるようでした」と語る。  「常に『どこか寂しい』という感情を持ちながら演じようと思っていました」とアントワネットの内面を掘り下げた平野は、可憐な14歳から、意志と愛を貫く気高さを持った大人の女性へと変化を遂げていくアントワネットの生き様を表現している。「時代が流れる中で、アントワネットの孤独が進行していきます。映画では、そのすべてが描かれるわけではありません。だからこそ映画を観る方にとって、声からもアントワネットがどのような経験をしてきたのか、想像できるようなお芝居ができればと思っていました」とアントワネットが積み重ねた時間や孤独まで、丁寧なアプローチを試みたという。 ◆好きな言葉は「初志貫徹」  本作の大きな特徴は、『進撃の巨人』『機動戦士ガンダムUC』『キングダム』などで知られる澤野弘之が手がけた15曲もの壮大な挿入歌が、キャラクターの人生をドラマチックに彩っていることだ。オスカル役の沢城みゆき、アンドレ役の豊永利行、フェルゼン役の加藤和樹。そしてアントワネット役の平野ももちろん、劇中で麗しい歌声を披露している。  平野は19歳で出演したアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒ役で一躍ブレイクを果たし、その後はミュージカルの世界にも進出。2014年には『レディ・ベス』で帝国劇場の主役を務めるなど、着実に歩みを進めてきた。歌唱もふんだんに盛り込まれた今回の『ベルサイユのばら』は、「声優を経て、舞台を経験してきた今だからこそ、たどり着けたような作品であり、役柄です。すべての経験が糧となって、パフォーマンスに繋がっているんだと思いました」と声優だけでなく、ミュージカル俳優としての経験を注げる作品になったと感慨深げ。「『こういった曲調のものが来るのか!』と、意外性のある楽曲をいただきました。そういったことにも今ならばいろいろなアプローチを考えたり、アイデアを提案したりと、対応できる術が備わっている状態」と実りの時期に、すばらしい作品に身を投じることができた様子だ。  作品や役柄について熱心に語るなど、仕事に並々ならぬ愛と情熱を傾ける姿がなんとも魅力的だ。パワフルなオーラが輝く平野だが、自分自身の道を切り開いていく上で大切にしているモットーは「初志貫徹。一度決めたら、揺るがない」と笑顔。「子役の頃から考えると、芸能活動を始めて27年ぐらいになると思います。その中で『もうやめよう』『もう続けられない』と思ったことはたくさんあって。一番悩みが深かったのは、20代の中盤に差し掛かるくらいだと思います。声優として活動しつつ、舞台の世界へと飛び込んで、もしかしたらすべてのお仕事を失うかもしれない、どうしようという不安もたくさんありました」と告白する。  くじけそうになりながらも、志を貫こうとする原動力とはどのようなものなのだろうか。「頑固な性格もあると思います」とふわりと微笑んだ平野。「私はもともとミュージカルや舞台の世界に憧れを抱き、10歳で児童劇団に入りました。当時、両親からは『今からこの仕事を選ぶなら、一生の仕事にしなさい』と言われて。その約束を大切にしながらずっと続けてきたんですが、『本当に無理かもしれない』と悩みが深かった時期に、両親は『約束はしたけれど、破ってもいいんだよ。また新しい約束をすればいいんだよ』と言ってくれました。とてもありがたかったけれど、『悔しい』と思って(笑)。一番応援してくれる両親に、『諦めました』と言いたくなかったんですね。そこで力を出してよかったなと、今でも思います。エンタテインメントが大好きで、皆さんにそれを届けられる喜びはとても大きなものです。そしてなにより私自身がいつもエンタメに助けられてきたので、今度はお返ししていく番」とまっすぐな瞳を見せていた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)  劇場アニメ『ベルサイユのばら』は、1月31日より全国公開。

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