上白石萌音、大学卒業し仕事一本になった1年は「“さぁどうする?”と問われている感じ」

 事件を得意の将棋になぞらえて解決する、“百手先も読めるのに空気を読まない”新米弁護士と、“二手先も読めない”優しすぎる若手所長弁護士のバディぶりが好評を集めるドラマ『法廷のドラゴン』(テレ東系/毎週金曜21時)。本作で、女性初のプロ棋士誕生を期待されながらも、あることをきっかけに弁護士に転向した主人公・天童竜美を、上白石萌音が生き生きと好演している。将棋の知識がまったくなかったという上白石に、本作の魅力や、昨年大学を卒業し仕事一本と向き合うことになった今の気持ちを聞いた。 【写真】和装がよく似合う! 上白石萌音、キュートな撮りおろしショット ◆将棋は「知れば知るほど恐ろしい」  本作は、『相棒』『科捜研の女』(テレビ朝日系)を手掛けた戸田山雅司による完全オリジナル脚本で描く、将棋×痛快リーガルドラマ。上白石演じる竜美と凸凹コンビを結成する法律事務所所長の歩田虎太郎を高杉真宙が演じ、息の合ったやり取りを繰り広げる。ほかに、和久井映見、田辺誠一、小林聡美と芸達者なベテラン勢が顔をそろえることも話題のドラマだ。  まったくの将棋初心者だったという上白石は、羽生善治九段が監修した子ども向けの将棋本で駒の動き方や将棋の考え方を勉強することからスタートしたという。「YouTubeで対局の映像を見たり、初心者向けの映像をたくさん見たりして、手つきのイメージトレーニングを重ねました。女流棋士の方に手取り足取り教えていただいたり、海外にも駒を持って行って現地でもパチパチやってみたりと、四六時中まずは触って慣れるように心がけました。でもいまだにわからないことも多くて。本当に奥が深すぎます」と語る。「でも、将棋を知ることが竜美を知ることだと思ったので、ゆっくりしたペースではありましたが、いろいろ勉強をして将棋への愛を膨らませ」ることで、竜美という役を作り上げていった。  台本には法律用語や将棋用語があふれる。「これまでセリフ覚えはあまり苦労せずにきたんですが、今回初めて壁にぶち当たりました。かなり鍛えてもらいました」と笑う。将棋に対するイメージも変わっていったそうで、「知れば知るほど恐ろしい世界。知れば知るほどわからない」と明かしつつ、「ルールを理解したりいろんな戦法を知ったり、棋士の方とお話をして、『あ、将棋ってこういうものなんだ、すてきだな』って思うと同時に、だとしてなんでできるのかわからないっていう(笑)。思考回路や理屈を説明されて、より混乱することってあるじゃないですか。それが起こっていました」と苦笑い。  棋士は何手先も読みながら対局に挑むというが、そうした素養は自身にもあると明かし、「会話の何手先かは読んでます!」と胸を張るが、「練習して、所作は有段者と言われました! でも戦術の面では三手でばれるとも言われて(笑)。ちゃんと指せるようになりたくて、撮影中にお世話になった女流棋士の方に教えてくださいとお願いしています」と、将棋の道への精進は続く。 ◆勝負の世界に生きた竜美を演じることで自身の負けず嫌いに気づく?  演じる竜美の魅力を尋ねると「考える時間をちゃんと取れるというところが素敵だなと思います」との答えが。「竜美は人を待たせてでもちゃんと考えたい人。人を待たせちゃうという社交性では問題があるかもしれませんが、それくらい相手のこともしっかり考えている。将棋では一手が命取りになるように、1つの言葉や1つの行動にすごく意味があるんだということを知っている子なんです」と話す。  子どものころからプロ棋士を目指し、将棋一色の人生を送ってきた竜美は、勝負に対するこだわりも強い。上白石にも、そうした一面はあるのだろうか?「この世界(芸能界)も勝負といえば勝負かもしれないですが、そんなに勝ち負けがつくわけじゃなくて、どちらかといえば自分との戦い。自分で良しと思うか、ダメだったなと思うかの世界なので、相手に対して闘志を燃やすというのはあまりなくって。でも今回竜美を演じて、自分も実はすごく負けず嫌いなんだな、私も勝ちたいんだなと気が付きました」と明かす。「棋士の方の気持ちを知りたいなと思い、本をたくさん読んだんですが、やっぱり対局の時は、相手の息の根を止めるくらいの気合いでいくらしいんです。頭脳戦ではあるけれど、それくらいの気持ちでいくと。1回の負けが命取りになる世界だと知ってから、私も法廷のシーンの前は“戦”だと思って臨むようにしました。すると、さぁここから長セリフですという時に、心の中で着火するのが嫌いじゃなくて(笑)。滾(たぎ)る自分がいたんですよね。今まで自覚してこなかったけれど、これからは意識的に負けん気をがんがん燃やしていこうかなと。そんな喜びを覚えてしまいました」と笑顔を見せる。 ◆高杉真宙とのやりとりに安心感 憧れの小林聡美との共演に感激  竜美とバディを組む虎太郎を演じる高杉との掛け合いも魅力の本作。高杉について「本当に信頼のおける方で、現場でご一緒していて、気が付く点や気になる点が一緒だったので、とても楽でやりやすかったです」と語る。「弁護士って正義だけではなくて、依頼人を守るという仕事なのでグレーな部分も出てくるんですよね。そこに対する倫理観も近かったです。『私たち今、危ないことをしようとしているんですよね』という共通認識を持ちやすかったですし、そうするとこの言葉は強すぎないかとか、こういう言い回しで伝わるだろうかとか、そういう感覚がとても似ていたので、確認し話し合いながら演じることができました」と感謝する。  竜美と虎太郎の法律事務所のパラリーガル兼経理・乾利江役を演じる小林聡美との共演は夢だったそう。「聡美さんは憧れの存在で、いつかご一緒できたら幸せだなと思いながら、ご出演作を見たりエッセイを読んだりしてきたんです。撮影の空き時間に、事務所の片隅にある畳に並んで腰かけながら、好きなおにぎりの具の話をしたときには、『これって「かもめ食堂」じゃん!』と思って、泣きそうになったり」と笑顔。「私、聡美さんの背すじが好きなんです。いつもまっすぐで、どんなにリラックスされていてもあの姿勢でお芝居や人に丁寧に接する姿をそばで拝見できて、すごく幸せでした。聡美さんがくださったクッキーがうれしすぎて、写真を撮りました」と、充実した撮影を送った様子。「本当に聡美さんみたいな人になりたいです。お仕事に対しても人に対しても丁寧だし、自分の言葉を持っている方で、常にしっくりくる言葉を探しながら文章を書いたりお話をされたりしている方だと思います。そういう姿勢もそうですし、愛嬌とかユーモアとか、凛とした佇まいとかすべてが憧れです」。 ◆大きな仕事が続いた2024年 一番印象に残っているのは「大学を卒業したこと」  2024年は、舞台『千と千尋の神隠し』の再演でロンドン公演を経験、さらには映画『夜明けのすべて』で日本アカデミー賞 優秀主演女優賞やTAMA映画賞 最優秀女優賞を受賞、自身最大規模のライブツアーを開催するなど充実した1年となった。そんな中でも、一番印象に残っていることは、大学を卒業したことだという。「今までお仕事のかたわらに学業がなかったことがないので、『仕事一本だ!さぁどうする?』と問われている感じがして。印象が今までと全然違う一年になったなと思います」と振り返りつつ、「今まで学業に割いていた分を、自分の時間を大事にするとなって、自分の機嫌のバランスのとり方がすごく変わった年でもあった」とも。  多忙を極める仕事と学業の両立はハードな日々であったと想像するが、「逆に人より時間がないから頑張ろうと思えていました。それに、どっちかで行き詰まっても、『課題をやるか』と逃げられていたんです。今は逃げ場がなくなって、やっとひざを突き合わせてじっくりやれるようになったなという感じです。言い訳がきかなくなったなって」と思いを吐露。「でも勉強はしていたいなという思いはあるので、たぶん、今後もいろいろと手を出すんだと思います」と新しいことへのチャレンジは続けていくつもりだ。  「今回演じる竜美も26歳で社会人生活をスタートしてるんですよね。私と境遇が近いかもしれない」と語る上白石。「大学を出て就職したとなると4年目とかですかね。仕事に就いている友人たちを見ているとちょうど悩む時期みたいで。仕事もいろいろ軌道に乗ってわかってきて、後輩もできて、じゃあ私どうする?という悩みをみんな抱えてやっているんですよね。好きなことを仕事にした人も好きなだけじゃダメだと思い始めたり、だんだん仕事が好きになってきた人も、ここからどうしよう?と悶々としていたり。そういう意味でも、『法廷のドラゴン』の竜美の姿は、好きなものと仕事のバランスのとり方や折り合いのつけ方などの1つの例を示せる作品だと思います。いろいろ葛藤を抱えながら頑張っている社会人の皆さんにも見てほしいなと思います」。(取材・文:渡那拳 写真:高野広美)  ドラマ9『法廷のドラゴン』は、テレ東系にて毎週金曜21時放送。

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