岐阜県揖斐郡池田町にある「池田温泉」。池田町が運営する温泉がある「池田温泉 新館」の2階、3階部分には、町が委託した「株式会社 たち川」が運営する高級レストラン「郷土料理 たち川」と高級ホテル「池田温泉旅館 たち川」が入っていた。 【写真】高級外車・BMWに乗って移動するA氏。バンに段ボールを詰め込んでいた“夜逃げの瞬間”も しかし現在、新館の入り口には〈事業を停止することとなりました〉と記された1枚の紙切れが貼られ、2、3階部分に人影はない。前回記事「岐阜県の名所・池田温泉の人気旅館が突然の閉鎖 町が運営委託した事業者が“夜逃げ”していた!」で報じたように、「株式会社 たち川」のオーナー・A氏は7月30日深夜、旅館から荷物を次々運び出し、夜逃げしていたのだ。 “事件”から一週間が経ったいまも、A氏は姿をくらませている。NEWSポストセブン取材班が現地取材を進めると、A氏の会社の困窮ぶりと池田町の“混乱”が浮かび上がってきた--。【全3回の第1回】 「株式会社 たち川」夜逃げの背景には、経営の悪化があったようだ。夜逃げ直前の7月25日、池田町長からA氏に宛てて、次の内容の督促状が届いていた。 〈5月分までの施設使用料等の未納が7月25日時点で2,288,097円ございますので、(中略)7月31日(木)までに金融機関または役場会計課にて納入していただきますようお願いいたします〉 A氏はこの使用料を町に納めることなく、納入期限の直前に「夜逃げ」したことになる。しかしA氏の「借金」は、これだけではなかったというのだ--「池田温泉旅館 たち川」の元従業員が証言する。 「オーナーのデスクの上には、仕入れ先などからの大量の請求書が山積みになっていました。支払っていなかったのは町に対してだけではなく、仕入れをしてくれていた地元の生産者の方々にも未納状態が続いていたんです」 「郷土料理 たち川」はその名の通り、地元の食材を使用した料理がウリの高級レストランだった。開店以来、コメを納品していたという農家のBさんが憤る。 「今年の2月から料金未納の状態が続いていました。これまでも、支払われる金額が微妙に足りないといったことがちょくちょくあったんですが……『必ず支払います』と言いながら支払われなかったこともあり、7月からはお米を納めていませんでした。 毎月月末に支払いがあるので、そこで支払いがあるかなと思っていたら、今回の夜逃げ。町役場にどうしたらいいか聞いたら、『申し訳ないが我々もどうすることもできない、A氏側の弁護士事務所に問い合わせてくれ』と言われたんです」 合計で約17万円の未納があったと話すBさん。返金を求めるために弁護士事務所に問い合わせると、驚きの言葉が返ってきたという。 「担当弁護士さんは『返済額の多いところから返しているので、Bさんに返すには相当時間がかかる。そこまで回ってこないかもしれません』と言うんです。かなり良心的な価格で納入していたつもりですが、A氏本人がどこにいるのかもわからず、このまま泣き寝入りしないといけないのでしょうか……」 主に鶏肉を納品していた精肉店のCさんも、5〜7月の請求分が未納だという。「7月31日までに振り込む」という約束が守られなかったため、Cさんはレストラン事業が停止した翌日となる8月1日、オーナー・A氏に電話をかけたという。 「『まだ振り込み確認できてませんけど』と聞くと、Aさんは『そうですね、色々バタバタしてたので』と。そして、『来週アタマには払います。8月4日です』と言うんです。約束ですね? と念を押したら、一応『はい』と言っていましたが、結局支払われませんでした。 あまり悪いことは言いたくないですが、やり方がズルいなとは思いますよね。わかっていて、計画的だと思うので」 他にも、卵を納品していた養鶏場のDさんも同様に、15万円ほどの未納金があるという。前出の従業員が証言する。 「食品の仕入れ先のみならず、リフォーム会社やホテル清掃の会社にも未納があったはずです。借金が一体いくらあったのか、怖いほどです」 池田町の生産者が憤るA氏の対応。さらに「郷土料理 たち川」の厨房担当者・Eさんも、「オーナーは費用をうかせるために、“食品偽装”をしていた」と証言したのだった--第2回記事で詳報する。 (第2回につづく)