広陵高校・野球部での暴力事案 学校側が「いじめ」と判断せず?

第107回全国高等学校野球選手権大会が5日、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕した。7日、第4試合で旭川志峯(北北海道)との戦いに挑む広陵高校(広島)が、「集団暴行事件」を巡る問題で揺れている。同校は今大会が26度目の出場となる甲子園常連校だ。 被害生徒の保護者のものとみられるSNSアカウントが、「高校野球名門校」内で起きた暴力事件として事案に関する発信をはじめたのは7月23日。以降、学校名こそ書かれていないが、「2025/1/22からの記録」として集団暴行事件の経緯や顛末について投稿を続けていた。 一方、各紙の報道等によれば、広陵高校が5日、硬式野球部で今年1月に暴力事案が発生し、高野連(日本高校野球連盟)から厳重注意を受けていたことを明らかにした。 各紙報道の内容と同アカウントの投稿に一致点があったこと等から、同アカウントが発信していた内容は広陵高校での事案だったと同定され、SNSを中心に波紋を広げている。(ライター・渋井哲也) 「川に飛び込んでみようかな」追い詰められた被害生徒 同アカウントの投稿によると、1月23日早朝、保護者のもとに野球部のコーチから「息子さん(被害生徒・当時1年生)が寮からいなくなった」と電話があった。原因を尋ねると、「寮内でカップラーメンを食べているのを2年生が見つけ、厳しく指導した」からだという。 その後、被害生徒は自宅に帰宅し、「正座させられて10人以上に囲まれて 死ぬほど蹴ってきた」「顔も殴ってきたし」「死ぬかと思った」などと保護者に話した。 保護者は、被害生徒の話を聞き取っていたメモをもとに、コーチに確認。するとコーチは「ほぼほぼメモでいただいた内容と合っています」として謝罪したいと申し出た。 しかし、被害生徒が寮に戻ると、コーチ同席のもとで監督からカップラーメン(の飲食)について叱責された。そして同監督は「お前嘘はつくなよ」「2年生の対外試合なくなってもいいんか?」などと被害生徒を追い詰めた。さらに寮では、上級生からの嫌がらせが続いた。 被害生徒は1月29日にも寮を脱走。「川に飛び込んでみようかな」と考えるほど、追い詰められていたという。広陵高校の発表によると、その後、加害生徒4名が被害生徒に謝罪したが、被害生徒は3月末で転校している。 なお筆者の取材により、学校側がこの事件を「いじめ」と判断せず、被害生徒の転校が決まってからも県などへの報告は行っていないことがわかった。 「上級生が下級生に指導をする際に、手が出てしまった」 広陵高校は、筆者の電話取材に応じ、部内で暴力事件があったことについては以下のように「事実」と認めた。 「1月下旬に硬式野球部内で暴力事件がありました。具体的には、上級生が下級生に指導をする際に、手が出てしまった。それは事実です。ただ、ネットで指摘されている中で学校としては事実を確認できていないものもあります」(同校事務長) 「事実を確認できていないもの」とは、主に「性的なことについて」だという。SNS上では集団暴行の中で、上級生が被害生徒に対し陰部をなめるよう指示したなどという話も出回っている。こうした内容については「学校の聞き取り調査では(性的な)行為は確認できていません」(同前)とした。 高野連と保護者に違う「報告書」渡したか また、保護者のものと思われるアカウントの投稿では、学校が高野連へ送った報告書の内容と、保護者に渡した報告書の内容が違うとの指摘がなされている。 この点について事務長は「(保護者が言う報告書は)中途のもので、最終的な報告書ではないのではないかと思っています。高野連に送ったものが最終的な報告書です」と説明した。 その上で、警察の捜査には学校としても全面的に協力し、学校ではすでに加害生徒に対する処分も行ったという。 「暴力行為が事実と判明した時点で、学校としては加害生徒らに謹慎処分を行いました。内規に関わるため具体的な日数は申し上げられませんが、登校禁止にしました。また、高野連からは、学校に対して厳重注意処分、加害生徒に対しては、対外試合出場停止1か月という処分がありました」(事務長) 「今回はいじめではなく暴力事件」県への報告なし こうした暴力事件は、いじめ防止対策推進法で定義される「いじめ」(同法2条1項 ※)に当たり得る。また、被害生徒が怪我をし、転校を強いられた点から考えれば、同法における「重大事態」(同法28条1項)に当たる可能性も生じる。 ※児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの 重大事態に該当するのは以下の2つの場合である。 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。 このいずれかに該当する場合、学校法人が運営する広陵高校では、学校を所轄する広島県の知事に報告しなければならない(同法31条1項)。さらに、事案の報告を受けた知事が必要と認めた場合には、附属機関を設けるなどして、学校が行った調査結果について調査することができるとされている(同条2項)。 しかし、学校側は「今回はいじめではなく暴力事件」として、そもそも県への報告を行っていない。 「今回は、指導に伴う単発の暴力です。これもあってはならないのですが…。行為が継続的に行われたわけではないため、学校としてはいじめ、ないしは、いじめ重大事態としては捉えていません」(事務長) こうした学校側の対応について、いじめに詳しい藤川大佑・千葉大学教育学部長は「学校内で行われた本件集団暴行は明らかに『いじめ』です。被害生徒が転校したのなら重大事態にすべき案件でしょう」と指摘。さらに「県への報告も、調査も必要だと思います」と語った。 「加害者の実名・顔写真のアップはやめて」 なお、被害者の保護者のものと思われるInstagramのストーリーズが6日更新され、「加害者関係者の方の顔写真、名前が今SNSで晒されているそうです。くれぐれも実名、顔写真等をSNSにアップすることはお止めください アップされてる方は削除お願いします」と加害者の特定につながる行為の中止を呼びかけた。 そして同投稿では「私の想いとしては高野連様には春大会の時点で適切な処罰して欲しかった事と 監督様には暴行事件の本当の内容を理解し、高野連への虚偽報告など行わず 保護者会なりで監督ご本人が説明し、謝罪頂きたかった事です」と改めて訴えた。 ■渋井哲也 栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。依存症、少年事件、教育問題など。

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