[声 参院選2025〜地方から] 茨城県筑西市の特別養護老人ホームで、インド出身のシングリ・ベロナ・クリスティーさん(24)が食事の介助をしていた。 「ハヤシライス、おいしいですか」。日本語で声をかけ、優しく寄り添う。 日本のアニメが好きというベロナさんは昨年11月、「特定技能」の在留資格で来日した。介護福祉士を目指しており、将来は母国で福祉施設を開くのが夢だ。 社会福祉法人「征峯(せいほう)会」は市内で8施設を運営する。利用者約500人を支える職員約380人のうち、23人はインド、タイなど海外の出身だ。外国人採用を本格的に始めたのは2020年。理事長の渡辺和成さん(53)は「人口減を見据え、優秀な外国人材を確保して体制を整備しようと考えた」と話す。 当初は言葉の壁があり、困ったことをうまく伝えられず、悩む職員もいた。日本語や介護業務の勉強会を開き、翻訳アプリも活用して意思疎通を図った。「異国では誰もが不安を抱える。生活面のサポートにも努めた」と振り返る。 県は高齢者人口がピークを迎える40年に、介護分野で1万人余りの人材が不足すると推計。ベトナム政府やインドの大学などと人材の受け入れ促進に関する覚書を結んだ。 征峯会は40年までに職員を1000人台まで増やす方針だ。1〜3割を外国人にする予定だが、渡航費など1人35万円前後の費用がかかる。渡辺さんは「採用に二の足を踏む事業者もあり、国には費用面の支援拡充を望む。外国人に安心して働いてもらえる環境作りは喫緊の課題だ」と訴えた。 ◇ 岐阜県のNPO法人「可児市国際交流協会」は、外国籍の子ども向けに日本語や学習支援の教室を開いている。小学生の息子が通うフィリピン出身のミシェル・カセレスさん(42)は「学校の授業で使う単語は難しい。私も夫も教えてやれないので助かる」と話す。 「国籍に関係なく、教育を受ける権利がある」と事務局長の各務真弓さん(67)は話す。外国籍児童向けの託児所の運営などを通じ、学校に通わない、授業についていけない子どもたちを見てきた。 可児市の人口約9万9000人のうち約9%を外国人が占める。1990年の改正入管難民法施行で日系人の定住や就労が認められ、自動車部品工場などで働くブラジル人が急増。2008年のリーマン・ショック以降は、入れ替わるようにフィリピン人が増えた。 外国人への就学支援は定着してきたが、高校や大学への進学率は依然低い。「非正規雇用で経済的に困窮している家庭も多い。親が日本語を話せず、次第に子との関係が希薄になるケースもある」と指摘する。 市によると、多言語での生活案内や交流行事の推進により、ごみ出しや騒音などを巡る住民との摩擦は減ってきた。一方、外国人住民の一部で高齢化が進み、生活苦や地域での孤立といった課題も出始めている。 各務さんは「生活者としての外国人の受け入れが十分とは言えない。国は現場で対応する地域の実態にもっと目を向け、制度を整備していくべきだ」と求めた。(水戸支局 市川莉瑚、岐阜支局 岩佐淳士) 日本国内に376万人 日本で暮らす外国人は昨年末に過去最多の376万8977人にのぼった。国立社会保障・人口問題研究所は2067年に総人口の10%を超えると予測する。 今後しばらくは年16万人程度増加するとみるが、出入国在留管理庁の統計では昨年1年間で36万人近く増えており、推計の2倍超のペースとなっている。 人手不足を背景に、政府は外国人の受け入れ環境の整備を進める方針だ。外国人材の育成と確保のため、27年度までに、長期就労可能な在留資格「特定技能」への移行を促す「育成就労制度」を創設する。長時間労働や賃金未払いなどの問題が相次いだ「技能実習制度」は廃止となる。